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秋田地方裁判所 昭和46年(行ウ)7号 判決 1985年10月14日

原告 佐藤市之助

被告 秋田県知事

主文

一  原告の被告が昭和四六年五月一八日付で原告に対してなした別紙A第一目録記載の一時利用地指定処分の取消しを求める訴えを却下する。

二  原告の被告が昭和四九年一月一四日付で原告に対してなした別紙A第二目録記載の換地処分の取消しを求める請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文一項掲記の一時利用地指定処分(以下本件指定処分という。)を取消す。

2  主文二項掲記の換地処分(以下本件換地処分という。)を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  原告の本件換地処分取消しの請求についての本案の申立

主文二項同旨

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

〔A〕  一時利用地指定処分取消しの請求について

1(一) 被告は県営土地改良事業能代北部地区(以下その事業を本件改良事業という。)の施行者である。一方原告は右能代北部土地改良区の組合員であり、右施行地区内に別紙A第一、二目録に各記載されている従前地(以下原告従前地という。)を所有し、これを耕作していた。

(二) 右事業計画は昭和四二年五月二六日所定の手続を経て確定したものであるが(土地改良法八七条―以下単に法八七条のようにいう。)、その概要は次のとおりである。

(1) 目的

農用地の区画整理事業であり、農用地の改良、開発、集団化に関するいわゆる農業生産基盤を整備し、農業構造の改善と農業生産の発展に資することを目的とする。

(2) 施行区域

能代市と山本郡峰浜村の各一部の地区で約三六二・八ヘクタールを対象とするが、事業施行区域が広範であるため、全体を第一ないし第三区の三換地区に分けて事業を進めた。原告従前地はそのうち第一区(秋田県能代市の一部―以下単に第一区という。)に属していた。

(3) 工事期間

右第一区は昭和四二年から同四五年にかけて工事が施行された。被告は右第一区をさらに四工事区に分け、これを各年度に分けて順次工事を完成させていつた。

(三) 第一区の工事の進行と原告の不服申立てならびに被告の対応

(1)(イ) 被告は、所定の手続を経て、昭和四三年四月二日第一区の換地計画を定め、これを秋田県公報で公告し、かつ同日から同月二一日までの二〇日間それを縦覧に供した。

(ロ) 原告は、これに対して、昭和四三年五月二日、農地が集団化されていないこと、原告従前地と比較して右計画による換地では原告は不利益を受けること、また公平も害されることなどを理由として、異議申立をした。

(2)(イ) 被告は原告に対し、昭和四二年度の工事完了に伴ない、昭和四三年五月四日付通知書をもつて、別紙B第一目録記載(以下B第一目録のようにいう。)のとおり一時利用地の指定をした(以下第一次指定のようにいう。)。

(ロ) 原告は昭和四三年五月九日付で右指定処分に対して異議申立をした。

(ハ) ところが、被告の機関である県営圃場整備事業能代北部地区換地委員長大谷新一郎と原告との間に、昭和四三年六月一日、「変更計画時に原告の要望に沿うよう努力をする」との契約が成立した。そこで原告は同年六月一一日右異議ならびに前記(1)(ロ)の換地計画に対する異議をそれぞれ取下げた。

(3)(イ) 次に昭和四三年度の工事完了に伴ない、被告は原告に対し、昭和四四年五月二四日付の通知書をもつて第一次指定を取消し、新たにB第二目録記載のとおり一時利用地の指定をした(右取消しと指定とは、原告と訴外佐藤久一郎とがそれぞれ一時利用地として指定された土地を任意に交換したいと申出て、被告がこれに応じたものである。)。

(ロ) 続いて被告は、原告に対し、前記同日(五月二四日付)付通知書でB第三目録記載のとおり一時利用地の指定をした。

(4) さらに昭和四四年度工事完了に伴ない、被告は原告に対し、昭和四五年五月二〇日付通知書をもつて、B第四目録記載のとおり一時利用地の指定をした。

(5) 被告は、換地委員長と原告との間に成立した前記約束にしたがい、以上のとおり一時利用地の指定をしたものである。

(6)(イ) ところが被告は、昭和四六年五月一八日付通知書をもつて、前記第二次ないし第四次各指定処分をすべて取消し、新たに本件指定処分をした。なお右処分により指定された一時利用地、従前地の位置関係は、別紙Cのとおりである。

(ロ) 原告は、昭和四六年五月二二日付で本件指定処分に対して異議の申立をした。これに対し被告は同年八月七日右異議申立を棄却し、そのころ右決定は原告宛通知された。そこで原告は本訴に及んだものである。

2 原告が本件指定処分を違法だとする理由は次のとおりである。

(一) 本件指定処分は原告と換地委員長大谷新一郎との前記契約に違反する。

すなわち、前記のとおり右契約成立後、いわゆる神田地区に所在した原告従前地に相応する面積の土地を同地区に指定されたいとの原告の希望にしたがつて、前記第二ないし第四次の各指定処分がなされた。他の異議申立人についても同様にその希望を配慮した一時利用地の指定がなされた。

ところが、昭和四六年五月一八日突然従前のそれが取消され、本件指定処分がなされたのである。その結果原告はいわゆる神田地区の三筆の従前地に対して、A第一目録記載のとおり、天神地区に一時利用地の指定を受けることになつた。

(イ) 神田地区は、後述するとおり、原告の住所から近く耕作に便利であるうえ、同地区の田は地味、水利その他すべての点で天神地区のそれより優れているのである。

(ロ) 一方天神地区の各従前地は砂地で、田として神田地区より格段に劣つていたが、本件改良事業後もその点は変わらず、しかも用水の便が悪くて本件指定処分で指定された土地全域にわたり地下水のポンプ引水によらざるを得ない。その他右指定地は、砂まじりのヘドロが堆積しているため、土砂が地盤を作らずに沈下し、大型機械が陥没して、その利用は困難である。

(二) 本件指定処分は照応性の点でも違法である。

(1) 原告は神田地区に従前地六二九二平方メートルを所有していたが、本件指定処分によると、原告は右従前地に対し同地区に二九一九平方メートルの指定を受けたに過ぎない。残りは天神地区に指定されたことになる。前記のとおり、神田地区の田は古くから開田され、地味も豊かであり、また国道にも近く耕作に極めて便利である。しかも原告が神田地区に指定を受けた田には、二本の鉄柱と四本の支柱があつて耕作にはなにかと支障がある。

(2)(イ) 被告は、神田地区に一時利用地の指定を求める組合員の希望者が多く、土地が不足すると主張しているが、実際には、たとえば佐藤勝三郎、金谷春吉、永井治之松の三名については、逆に天神地区の従前地に対し神田地区に広い面積の一時利用地の指定をしている。

(ロ) その他右三名以外にも、大高久雄、佐藤満、大高梅二、薩摩藤市、岡部利助、大高清など、組合員の中の有力者、土地改良区の役員などに、地味の点でも、集団化の点でも、有利な指定がなされている。集団化の点でまとまらなかつた者には、地味または位置において考慮されているという具合である。

(ハ) たとえば、本件土地改良区域の傍にある竹生小学校に対し、そのプール敷地を組合員らが寄付した。ところで右敷地に寄付された残りの土地は、本件改良事業の対象外の土地であるのに、右残りの土地を従前地として、それぞれ一時利用地の指定が神田地区になされている。

(ニ) また別紙Eの不当増配一覧表のとおり、大高梅二らには、神田地区に一時利用地として不当に多くの土地を指定している。

〔B〕  換地処分の取消し請求について

1 被告は原告に対し、昭和四九年一月一四日、別紙A第二目録記載のとおり本件換地処分をした。換地された土地は昭和四六年五月一八日付の本件指定処分のそれとまつたく同様である。(その関係は別紙C(一)、(二)のとおり。)したがつて本件換地処分を違法とする理由も、前記本件指定処分について主張したところと同じである。

よつて原告は本件指定処分取消しの訴えを、右本件換地処分取消しの訴えに交換的に変更する。

2 本件換地処分の違法について、次の点を付加する。

(一) 土地改良法の照応性の原則とは、従前地と換地とが照応することは勿論であるが、他の組合員の従前地と換地との関係とも整合していることを意味する。

(二) 原告は、換地にさいし、他組合員と比較して著るしく不利益な扱いを受けている。以下照応性の見地からみて不合理な換地がなされている例を一部具体的に示す。結局それらのしわ寄せを原告一人に負わせ、原告のみが神田地区の広い面積の従前地に対し天神地区の土地が換地されることになつた。

(1) 佐藤勝三郎について

昭和四六年五月一八日の一時利用地の指定と換地処分とでは、その対象土地の面積は、一万七八八五平方メートルで同じであるが、従前地は、前者が一万七六五五平方メートルであるのに対し、後者の場合には一万六〇二一平方メートルと減少している。したがつて一時利用地の指定の場合より換地のさいの増歩率が高くなつている。

これは、前記のプール敷地などを従前地から除外したためである。従前地が右のように減少しているのに、換地された土地の面積、位置が一時利用地のそれと変らないというのは不当である。

のみならず、同人に対する換地では、二六七九平方メートルの土地が天神地区から神田地区に動いている計算になる。

(2) 金谷春吉について

能代市竹生字前田四七番(以下単に前田四七番一のようにいう。)、四七番四、五〇番一、五〇番五の各土地は、昭和四六年までは、同人の従前地となつておらず、したがつて右各土地に対して一時利用地の指定もなされていない。右各土地は四六年になつて忽然と従前地として出現した。また前田五一番三は換地のさいに初めて従前地として記載された。また逆に五二番一、四七番二、四九番一、五〇番二の各土地は換地のさい従前地から抹消されている。換地手続とすると、以上のような従前地の出入はおよそ理解できない。

それにも拘わらず、一時利用地の指定より、換地のさいには増歩率を高め、しかも、従前地が天神地区にあり、その換地が神田地区へと、条件の良い方に変更されているのである。前記の従前地への不当加入がなければ、同人に対する換地面積は五〇〇平方メートル以上減じてもよかつた筈である。その分が神田地区から減らされれば、そのことだけでも、原告従前地のうち神田地区に所在するものについては同地区に換地を指定されたいとの原告のかねてからの要望は容易にかなう筈である。

(3) 大高清について

同人についても、一時利用地のときより換地の方が従前地の面積は九六一平方メートルも減つているのに、一時利用地も、換地についても、その指定された面積は同一である。

佐藤勝三郎の場合と同様に、本換地の場合には従前地前田五六番を削除したにも拘わらず、換地された土地の場所、面積は移動していない。原告と比較し、著るしく不当な換地というべきである。

(4) 岡部武について

同人は、昭和四六年の一時利用地の指定のときから、原告がさきに一時利用地として指定を受けていたところ、神田八番(旧地番)に割込んできた。一時利用地として指定された土地と換地された土地とは同一であるが、従前地には変動がある。従前地とされている土地の中には、前田一二〇番、同一二一番のように、改良事業がなんらなされず、しかも同人が耕作しないことにして休耕補償を受けている部分すらある。

いわば右両土地は、従前地として帳簿上で架空の編入をし、いつたんはその面積の割合で一時利用地の指定を受け、一方その後に従前地は土地改良事業の対象からはずすが、換地は右一時利用地と同じ土地を指定するというやり方である。同人はその分不当に利得している。またその換地の対象となつた土地もすべて神田地区である。

二  被告の本案前の抗弁

1  本件指定処分は、原告も自認するとおり、昭和四九年一月一四日付で原告従前地に対しての換地処分が通知され、その公告の手続も終了しているのであるから、その効力を全うして消滅したものというべきである。現段階では、右指定処分の取消しを求める訴えは法律上の利益を欠いた不適法な訴えとして却下を免れない。なお被告は本件指定処分の取消しを求める訴えの取下げには同意しない。

2  また原告の本件換地処分の取消しを求める訴えは、右本件指定処分の取消しを求める訴えとの間に民訴法二三二条所定の請求の基礎の同一性がなく、かつ両者は行訴法一九条一項、一六条一項所定の関連請求にも該当しない。したがつて本件訴えの変更申立は不適法である。それに本件換地処分取消しの訴えは独立の訴えとしても不適法であり却下を免れない。

(一) すなわち一時利用地の指定処分は、土地改良事業の施行地域内の従前の土地の権利者に対し、換地処分がなされるまでの間暫定的に一時利用地の使用収益を認めるとともに、従前の土地の使用収益を禁止するものである。したがつて換地処分がなされてその旨の公告があると、右一時利用地の指定を受けた者の当該土地に対する使用収益権は当然に消滅することになる。

一方新訴の対象である換地処分は、土地改良事業のいわば完結処分であり、その旨の公告のあつた日の翌日から、当該換地が従前地とみなされ、当該換地を受けた者が従前の土地の上に有した権利は、同一性を維持しながらそのまま換地上に移転することになる。このように両処分は、その目的、根拠、要件、効果をまつたく異にする別個独立の処分であるうえ、本件指定処分と本件換地処分の各根拠となつた基礎的事実関係もまつたく異なつている。すなわち本件指定処分は、処分のなされた昭和四六年五月一八日当時までの土地改良工事の完成の状況、その後の工事の進行の見込み等を考慮し、その時点での照応性の判断に基づきなされたものである。これに対し本件換地処分は、昭和四八年九月八日土地改良工事の全面完成を前提として、その時点での総合的判断としての照応性に基づき改めて決定された変更換地計画に依拠してなされたものである。

そして両処分の間には右のように実質的な関連性がないばかりか、手続的に先行・後行の関係がないのもまた明らかである。本件両訴はその請求の基礎の同一性を欠くし、行訴法一六条の関連請求にも該当しないから、本件訴えの変更は不適法である。

(二) 次に関連請求の追加併合においては、新訴が適法であるのは勿論であるが、旧訴も適法に係属していなければならない。本件指定処分は、本件換地処分がなされ、その公告の日の翌日である昭和四九年一月二七日限り消滅し、その取消しを求める訴えは不適法となつた。したがつてそれ以後、右訴えの係属を前提とした新訴の追加的提起は許されない。

(三) 原告は、被告が原告の訴え変更の申立の後に本案について弁論を行なつた以上、右訴えの変更について同意したものとみなすべき旨主張する。しかし被告の本案の弁論というのも請求棄却の判決を求めて、請求原因につき認否をしたものに過ぎない。請求棄却の申立の内には、不適法な場合の却下の申立を含むと解すべきであるし、現に昭和五〇年一二月一〇日付被告準備書面三においては、本件換地処分の取消しの訴えは不適法であると主張しているのである。

いずれにしても右程度の被告の訴訟行為で、請求の基礎を異にする訴えの変更が適法となるわけではない。

(四) 本件換地処分は、昭和四九年一月一四日付をもつてなされ、そのころ原告に通知されたものであるところ、原告が本訴を提起したのは、昭和五〇年七月二一日である。いずれにしても、本件換地処分取消しの訴えは、出訴期間を経過した後の不適法のものであるから却下されるべきものである。

(五) 次に農林大臣もしくは都道府県知事が、国営または都道府県営の土地改良事業について、変更換地計画を定めたときは、その旨を公告し、その写を縦覧に供さなければならず(法八七条五項)、これに対し不服のある者は異議申立ができる(法八七条六項)。この場合農林大臣もしくは都道府県知事は、一定期間内に右申立について決定しなければならないかわりに、当該変更換地計画については右決定の取消しを求めるほかに、直接換地計画の取消しを求めて訴えを提起することは許されないとされている(法八七条一〇項)。そして原告は、本件変更換地決定に対し昭和四八年一〇月一六日異議申立をしたが、被告がこれを同年一二月一日付で棄却したところ、以後原告はこれに対する取消訴訟を提起しなかつた。

ところで法が右のように取消訴訟を制限したのは、県営や国営のように大規模な土地改良事業では、その換地処分は多数の者の権利関係に重大な影響を与えるところから、他の一般の改良事業と異なつた扱いとし、その権利関係を早期に安定させようとしたものである。すなわち、その権利関係決定の基礎となる換地計画については特に規定を設けて、異議決定に対してのみ取消訴訟を提起し得るとして原処分主義の例外としたほか、換地計画に対する不服申立の途を一本化したものである。右の趣旨によると、県営、国営の土地改良事業においては、変更換地計画の違法を理由として、換地処分の取消しを求めることはできない。

本訴において原告が本件換地処分の違法事由として主張するところは、いずれも変更換地計画の決定に関する事項にとどまるから、結局右訴えは不適法といわざるを得ない。

三  本案前の抗弁についての原告の主張

1  本案前の抗弁1のうち、本件換地処分がなされ、公告の手続が終了したことは認める。その余は争う。

原告の交換的な訴え変更の申立に対して、被告は昭和五〇年一〇月二一日の口頭弁論において、異議を留めずに本案についての答弁等の弁論をなした。右は本件指定処分取消しの訴えの取下げについて黙示の同意をなしたものである。

2  同2冒頭の主張は否認もしくは争う。

(一) 同(一)も否認もしくは争う。

(1) 一時利用地の指定と換地処分とは換地計画を共通項として結びついており、両者の関係は先行・後行のそれというべきであり、統一された関連の処分と解される。

(2) 原告は、本件指定処分の取消しを求める理由として、<1>昭和四三年六月一〇日付の契約に違反する、<2>一部の者の利益を図る恣意的処分であり、照応性の原則に著るしく違反している、という主張をしている。本件換地処分の取消しを求める理由もまつたく同一である。それにそもそも前記六月一〇日付契約は、当初から最終的な換地の適正を目的としたものである。

(3) 原・被告間のこれまでの争訟すべては、結局最終的な換地処分に向けて展開してきたものである。したがつて本件指定処分の取消しを求める訴えは、換地処分がなされると、その取消訴訟に実質的に変更される。本件では形式的手続的側面が残つていたに過ぎない。だからこそ被告も応訴してきたのである。

(4) 以上のとおり、本件指定処分取消しの訴えと本件換地処分取消しの訴えとの間には請求の基礎に同一性があり、また関連性もある。

(二) 同(二)も否認もしくは争う。

(三) 同(三)も否認もしくは争う。前記のとおり被告は異議を留めずに本案について弁論をなしたのであるから、訴えの変更に同意したものとみなされる。またいつたん本案について弁論をなした後に訴えの変更について異議を申し立てるのは、時期に遅れた攻撃防禦方法である。

(五) 同(四)は争う。本件争訟の経緯からすると、行訴法一四条三項但書きの正当の理由があるというべきである。

(五) 同(五)も争う。

四  請求原因に対する認否

〔A〕  一時利用地指定処分取消しの請求について

1(一) 請求原因1(一)は認める。

(二) 同(二)の冒頭の主張は認める。

(1) 同(1)は認める。

(2) 同(2)は認める。なお第一区の関係地権者は二八五名、その施行地域の全面積は、約二一九・八九ヘクタール(民有地約一九四・五七ヘクタール、国有地約二五・三二ヘクタール)であつた。

(3) 同(3)も認める。ちなみに国有地を除く年度別各工事施行区域とその面積は次のとおりである。

(イ) 昭和四二年度 約一五・一四ヘクタール(別紙D工事施行図面中赤色で表示された部分)

(ロ) 同四三年度 約一四・〇二ヘクタール(同青色で表示)

(ハ) 同四四年度 約一一五・六三ヘクタール(同黄色で表示)

(ニ) 同四五年度 約四九・七八ヘクタール(同緑色で表示)

(三)(1)(イ) 同(三)(1)(イ)は認める。なおその詳細は次のとおりである。

被告は、昭和四二年七月一日、本件土地改良区の組合員の中から、換地委員として大谷新一郎ほか一二名および土地評価委員として佐々木富重ほか一二名を各選定・委嘱し、その調査報告をまつて昭和四三年二月第一区の換地計画書及び換地図の原案を作成した。そしてさらに同月二六日、法八九条の二の二項、五二条三項の定めるところにしたがい、いわゆる権利者会議を招集し、同会議において右換地計画書原案を審議した結果、権利者総数二八五名中二三二名(本人出席一四九名、代理出席八三名)が出席し、出席者全員の賛成により右原案は可決された(なお、原告も右会議に出席した)。

そこで被告は、昭和四三年四月二日第一区の換地計画を定めた旨秋田県公報で公告し、かつ同日から二一日までの二〇日間秋田県山本農林事務所能代北部土地改良駐在所において右換地計画書写を縦覧に供したものである。

(ロ) 同(ロ)の異議申立の事実は認める。しかしその理由は農地が集団化されていないことであり、その余の点は異議の理由とはなつていない。

(2)(イ) 同(2)(イ)は認める。

(ロ) 同(ロ)も認める。

(ハ) 同(ハ)のうち換地委員長であつた大谷新一郎が原告に対し、昭和四三年六月一日、「変更換地計画時に原告の要望に沿うよう努力する。」という趣旨のことを記載した文書を渡し、その結果原告が各異議を取下げたことは認める。原告の主張する契約が成立したとの点は否認する。そもそも換地委員会は、法令に基づいて設置されたものではない。それは被告の立てた換地計画を適正・合理的に実施するため、組合員の中から適任者を選んで、あらかじめ内部の事務を円滑に行なわせようとして、設置されているものであり、意思決定や契約締結をする権限を有していない。また文書の内容も具体的な契約が成立したというものでもない。多数の利害関係人のいる土地改良事業において、特定の組合員に、その要望どおり換地するというような約束ができる筈もない。

(3) 同(3)(イ)(ロ)は認める。

(4) 同(4)も認める。

(5) 同(5)は否認する。

(6) 同(6)(イ)(ロ)は認める。

2(一) 同2(一)(イ)(ロ)のうち原告がその主張のような、一時利用地の指定を受けたこと、神田地区の一部の原告従前地に対して天神地区の土地が指定されたことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同(二)冒頭の主張は争う。

(1) 同(1)のうち、原告が神田地区に二九一九平方メートルの一時利用地の指定を受け、残りは天神地区に指定されたこと、神田地区に指定を受けた田の中に鉄柱とその支柱が立てられているものがあることは認める。その余は否認する。

なお原告の指定地を一部天神地区に移したのは、一つには岡部武、大高清ら神田地区にのみ従前地を有していた組合員に対しては他の地区の土地を指定できなかつたことと、一つには原告の指定地の集団化すなわち、原告従前地が九団地に分かれていたものを二団地化するためである。また原告は、神田地区に対して、天神地区を異常に差別視するが、本件改良事業は天神地区・神田地区の区別なく第一区全体として行なわれているのである。

(2)(イ) 同(2)(イ)のうち、三名の者が天神地区の従前地に対し神田地区の土地を指定されたことは認める。しかし、その神田地区の土地は、不整形地であつたり、また指定の希望者がいなかつた条件の悪い土地である。

(ロ) 同(ロ)は否認する。

(ハ) 同(ハ)については、一時利用地指定の段階では、形式的にそのとおりであることは認める。後述するとおり換地にさいしては是正されている。

(ニ) 同(ニ)も否認する。

〔B〕  換地処分について

1 請求原因〔B〕1のうち、被告が昭和四九年一月一四日その主張どおりの換地処分をしたこと、その対象土地が本件指定処分と同一であつたことはいずれも認める。その余は争う。

2(一) 同2(一)については、照応性とは従前地と換地との照応を指す。もとより本件の改良事業全体として、原告に対する換地が他の組合員のそれと整合していないということはない。

(二) 同(二)は否認もしくは争う。

(なお同2については被告の主張として詳述する。)

五  被告の主張

本件換地処分が、いわゆる照応の原則に合致したものであることにつき、被告は、次のとおり主張する。

1  照応性について

(一) 法五三条等は、従前地と換地との照応については、当該換地および従前の土地の、それぞれの用途、地積、土性、水利、傾斜、温度、自然条件およびその他利用条件に基づいて評定した等位によつてこれを決すべきものとしている。

(二) ところで、ここに土地の等位とは、当該土地が農業生産に供されるものである場合には、当該土地の地積等前掲諸条件を客観的、総合的に評価して格付けした段階的等級をいうが、本件換地処分に際し、被告がとつた従前の土地、ならびに換地についての等位決定の経過の詳細を述べると次のとおりである。

すなわち、秋田県では、従来から県営土地改良事業における換地およびその基礎となる土地評価の適正を期するため、換地計画の方針その他換地計画の策定に関する事項については換地委員会を、また、換地計画に係る土地評価に関する事項については土地評価委員会を、それぞれ設置し、知事の諮問に基づき、関係事項につき調査、審議のうえ知事に答申せしめることとし、各委員会とも、県職員及び関係土地改良区組合員の中から土地改良事業の対象地区の耕地に最も精通しているものそれぞれ二〇名以内を選出し、換地委員に任命もしくは委嘱してこれを構成すべきものとしている。

本件換地処分も、もとより右各委員会の設置、諮問、調査、審議、答申を経てなされたものであることはいうまでもないところである。

いま、これを本件換地処分の等位決定に直接関与した土地評価委員会について述べると、知事は、昭和四二年六月三日、本件土地改良区理事長からかねて依頼の第一区の土地評価委員適任者として、佐々木富重ほか一一名の推薦を受けたので、同年七月一日付けをもつて同人等に対し、土地評価委員を委嘱し、本件換地計画に係る土地評価等に関する事項を調査審議のうえ、答申するよう諮問した。

土地評価委員らは、即刻土地評価委員会を構成し、本件土地改良事業の対象土地の評価に着手したが、以後本件換地の評価諮問にいたるまでの作業経過は別紙F(一)のとおりであり、また右土地評価委員会が行つた土地評価の方法は、知事の提示したところにしたがい、各土地ごとに、地積、地味、耕土の深浅、広狭、形状、礫の多少、障害物、傾斜、日照、通風、かんがい、排水、通作距離、通路および災害等を実地調査し、自然条件、利用条件等をも加味勘案のうえ右調査項目ごとに評点を付し、総合評点をもつて等級を定め、前記等位を決定する方法によつたものである。ここにその調査項目等の詳細、採点の基準ならびに等位等決定の基準を示すと順次別紙F(二)、F(三)、F(四)のとおりである。

(三) 本件換地計画における土地評価の内容と経過は右に述べたとおりであるが、原告についての従前の土地および換地に対する右の手続による評価等の明細はF(五)のとおりである。

右各別紙で明らかなとおり、原告の従前地は、その総筆数は二〇筆九団地と散在し、各団地当り面積は狭少、不整形で利用条件も悪く、その等位も三等位ないし七等位とさまざまであり、その総合評点合計一二二九点、評価指数五三〇・九四四、平均等位四等位であつた。これが本件土地改良事業の結果、総筆数四筆二団地に集団化し、同排水の完備、道路等の整備や整地工事により、その等位ならびに平均等位三等位、一区画当り概ね三〇アールの規模、総合評点合計は三〇三・八点、評価指数は六三九・〇〇八の換地となつたのであるから、照応性に欠けることはないといわなければならない。

(四) しかして、本件換地処分は、右土地評価委員会の諮問を受けたうえ、これに沿つて換地計画を策定し、実施したものであるから、手続的にも公正であり、その内容も適正である。

2  照応性についての原告主張に対する反論

(一) 原告は、「神田地区は土質が良く距離も近いのに、天神地区は砂土、互礫で悪いうえ距離も遠方でかつ大型機械は入れられず、耕作に不便である。」との前提に立ち、「原告の神田地区の土地三四七二平方メートル(正確には三、三七三平方メートルの減である)を減じ、天神地区に三七一一平方メートル(正確には三七四〇平方メートルの増である)を増したのは不当である。」と主張する。結局原告の不服はその点に尽きる。

しかしながら、まず耕作距離の点については、原告に交付された四筆二団地は、いずれも原告の従前地跡ないしはその近傍地にあるのであるから、通作距離が遠くなつたとの主張は当らない。かえつて従前の土地が二〇筆九団地に分散していたことや、中には換地より遠隔の地に所在していた従前地もあつた事実に照らせば(別紙F(五)通路通作距離欄参照)、全体としての通作距離は大幅に縮減されたものというべきである。

(二) 次に、原告は、本件換地処分によつて、土砂、砂礫の多い土地が従前以上に多く与えられたと主張する。

しかし、そもそも田の良否は、土砂、砂礫の増減のみをもつて論じ得るものではなく、これをも含めて深浅、日照、通風その他の諸条件の改善、進化をも総合考慮して判断すべきであるから、原告の右主張は、それ自体失当である。のみならず、田の良否を云々するにあたり、区別の基準もあいまいな天神地区、神田地区などの分散により、一律に土砂等の増減を結論しようとする態度にも問題があるうえ、「天神五二、五三」の換地が、土砂、砂礫が多いとの主張自体全く真実に反する。またその両隣地と比較しても、原告の換地に大型機械が入らぬ筈がない。

(三) なお原告は、第三者との関係において、地積についてもふれるので、その点について付言する。

法五三条一項三号は、換地の従前の土地地積に対する増減の割合が二割に満たないことを換地の要件としており、右地積の割合は、同法施行規則四三条の七により、同規則附録の算式(1-S/O・ΣO/ΣS Oは従前の地積、Sは換地の地積、ΣOは従前の土地の総地積、ΣSは換地の総地積であり、ΣO/ΣSは当該換地地域に係る地域の増減歩率)で算定される。

原告の場合、従前の地積Oは八一四五平方メートル、換地の地積は八五一二平方メートルであり、従前の総地積ΣO一九〇五、三〇二・八〇平方メートル、換地総地積ΣS一九四五、七〇一平方メートルであるから、換地交付率は一〇二・一パーセント(ΣO/ΣS×100により算出される)であり、原告の換地交付基準地積は八三一七平方メートルである。

ところで、原告の実際の増歩地積は一九五平方メートルで、従前地積に対する増加地積の割合は二・三パーセントであるから、前記法条の要件は満たされている。

3  各人についての主張

原告の指摘する代表的な四人についても、特に有利に扱つたこともなく、適法にその手続はなされている。

(一) 佐藤勝三郎について

(1) 能代市竹生字竹生六〇番の一・二三四平方メートル(所有者佐藤正保)・同六〇番の二・一一二平方メートル(所有者日本国有鉄道)、六三番の一・二六四平方メートル(所有者西村節朗)の三筆についてはそれぞれ賃借権が設定されているとの同人からの申出により、昭和四四年及び同四五年の二ケ年にわたり、同人に対し一時利用地を指定した。さらに昭和四六年の一時利用地指定のさいに、前記土地の外に前田四三番の一・六九平方メートル(所有者永井孫作)についても賃借権が設定されているとの同人からの申出があり、これについても一時利用地を指定した。ところが変更換地計画作成のさい、竹生六〇番の一・前田四三番の一の各土地については賃貸借契約を解約し、所有者へ返還した、と同人からの申出があつたので、いずれも従前地から削除したものである。右各土地の分は、所有者へ返還されたことにより当然のこととして、それぞれの所有者(佐藤正保、永井孫作)に換地したが、最終的には所有者らからの申出により不換地処分として金銭清算を行つたものである。

また、同字六〇番の二については、所有者が日本国有鉄道であり工事も施行されていなかつたところから、結局地区外としたものである。

(2) 前田四四番・五五八平方メートル、四三番の二・一八八平方メートルは、地区外の土地(いわゆるプール敷地)であるが、昭和四六年の一時利用地指定通知書に誤つて従前地として記載し、これに対する一時利用地として前田六七番・七四六平方メートルと記載したのであるが、昭和四八年四月一四日開催の変更権利者総会において、従前地および換地共に削除したものである。

(3) 佐藤勝三郎の換地は、従前地積一万六八六二・五一平方メートルに対し、換地交付基準率一〇二・一パーセントを乗じた換地交付基準地積一万七二二一平方メートルに対して、換地一万七七二九平方メートルであり、地積の増減割合は、二・八パーセントで不当配分でない。

(二) 金谷春吉について

(1) 前田四七番一・三八六平方メートル、四七番四・五六平方メートルは五〇番一・九五平方メートル、五〇番五・六九平方メートルおよび五一番三・一二五平方メートルは、いずれも地区内の土地であり、当初より変更換地計画まで一貫して従前地となつている。

(2) 原告の主張する前田五二番一・一二七平方メートルは、五一番三・一二五平方メートルの誤りであろう。

(3) 前田四七番二・二七一平方メートル、四九番一・二七七平方メートル、五〇番二・八五平方メートルの各土地(いわゆるプール敷地)は、地区外の土地であつたのに誤つて昭和四六年の一時利用地指定通知書には、従前地として記載し、これに対する一時利用地として前田六五番・三五七平方メートルと記載したが、昭和四八年四月一四日開催の変更権利者総会において、その誤りを認め従前地および換地共に削除したものである。

(4) 金谷春吉については、従前地積五〇〇八平方メートルに対し換地交付基準率一〇二・一パーセントを乗じた換地交付基準地積五一一三平方メートルに対し、五三二九平方メートルの土地が換地された。そうするとその地積の増減割合は四・二パーセントで不当配分でない。

(三) 大高清について

(1) 前田五六番の土地(所有者大高金蔵)は、当初から地区内に属し、大高清が賃借していたものであるが、同人より、賃貸借を解約し所有者へ返還したとの申出があつたので、変更換地計画において従前地から削除したものである。

(2) 前田四二番の内一二八平方メートルは、岡部利助外五名(大高清を含む)が共同して購入した苗代地(登記名義人岡部利助、九六五平方メートル)の一部で、大高清が耕作していたところである。これについては一時利用地指定の際、岡部利助から賃借地として申出があつたのでそのように指定したが、変更換地計画において登記名義人に統一し、大高清外四名分の従前地をそれぞれ削除したものである。

(3) 神田一〇七番、一〇八番、一〇九番、一一六番計四筆、三三八〇平方メートルの土地については、昭和四五年一二月一六日、能代市須田字屋布添九五番地の熊谷正義から、所有権移転を原因とする資格得喪通知があつたので、変更換地計画において削除した。

なお、削除前における一時利用地の指定では、従前地八五一六平方メートルに対して八六四四平方メートルを換地している。

(4) ところが変更換地計画においては、熊谷正義に売却した右(3)の各土地および賃借地として一時利用地の指定の際従前地となつていた前田五六番・八三三平方メートル(所有者大高金蔵)、前田四二番の内一二八平方メートル(所有者岡部利助)の土地が、それぞれ土地所有者に返還されたので、いずれも従前地から削除した。結局従前地四一七五平方メートルに対し換地五〇六六平方メートルで、一八・八パーセントの増歩となつている。しかしそれは登記名義人に賃借地を返還した結果生じたもので他の組合員には何んら不利益な影響を与えていないし、又土地改良法に基づく限度内の増歩であつて不当配分とはいえない。

(5) 従前地前田五六番については、前記のとおり所有者大高金蔵の従前地とし換地したが、同人からの申出により不換地処分とし、金銭清算を行つた。また、従前地前田四二番の内一二八平方メートルについては、所有者岡部利助の従前地としたので、同人の換地として天神九〇番に指定されている。

(四) 岡部武について

(1) 昭和四四年一〇月二五日、父岡部多助より長男武への資格得喪通知があり、昭和四六年の一時利用地指定から権利者岡部武として取扱い、変更換地計画書には各筆換地明細書「(2)所有権以外の使用及び収益を目的とする権利に関する明細」で処理している。

(2) 天神前四八番一の内・一四八平方メートルは、四八番の一・五四二平方メートル(所有者永井作右エ門)の内の一部分を賃借して耕作していたので、一時利用地指定書に従前地を四八番の一の内、として記載して一時利用地指定を行つた。ところが変更換地計画作成のさいに賃貸借契約を解約、所有者へ返還したとの申出があり従前地から削除したものである。

(3) 前田一二〇番、同字前田一二一番は、昭和四三年度工事施行のさい地区編入した土地で、以後地区内である。

(4) 原告の主張する休耕地とは、前田一二一番の土地ではなく、これに隣接している一二二番の土地の誤りと思われるが、そうだとすれば岡部武は同土地を休耕しているので、休耕補償を受けたのは当然のことと考える。

(5) 前田一二〇番、一二一番は従前地であり現存しない土地について休耕補償料を受けているということは全く考えられないことであり、仮りに受けているとしても本件とは関係のないことである。

(6) 岡部武の換地は、従前地積三九九五平方メートル(多助名義分を含む)に対し、換地交付基準率一〇二・一パーセントを乗じた換地交付基準地積四〇八〇平方メートルに対して換地四二三〇平方メートルであり、地積の増減割合は三・六パーセントで不当配分でない。

(7) なお前記従前地字天神前四八番一の土地は、所有者永井作右エ門の従前地となり、その換地は字神田二一一番・三〇六〇平方メートルの一部となり、同人の換地となつた。

(五) その他

(1) いわゆるプール敷地については、当初から事業区域外の土地であり、従前地として取扱つていなかつた。しかし、代替地について関係者の要望により(当該土地改良区の組合員)ブルドーザーによる整地を実施したが、その配分計画を、能代北部土地改良区で作成して、関係者全員の立合により配分を行なつたというような経緯があり、昭和四六年の一時利用地指定のさい誤つて指定書に記入した。したがつて、昭和四八年四月一四日開催の権利者会議の変更換地計画書には、事業区域内の土地として入れられていない。

(2) 鉄道用地について

薩摩藤市の換地内に鉄道用地は含まれていない。本人が耕作している地区は天神地区であり、全く関係がなく、また、金谷春吉に関しては、鉄道用地は当初から従前地としても換地としても含まれていない。

(六) なお面積の点について、原告は種々主張するので、最後に全体を通じて検討する。すなわち、本土地改良事業地区の第一区関係組合員数は二〇一名で、地区内の土地の面積は、一九四万五七〇一平方メートルである。換地された土地については、地区全体をみてみると個々の増減はあるにせよ原告始め組合員には不利益を与えていない。全事業を通じて見るならば、地積の増減率が一〇パーセントを超えるのは、大高清外四名に過ぎない。これをさらに分けてみると、増配分人員が六九名でその平均が三・七四パーセントになるが、一方減配分人員も一三一名となり、その平均は一・三三パーセントとなつている。関係組合員(同居親族を除く)の平均配分率は〇・四二パーセントとなる。原告は前記のとおり、増配分の人員に属している。いずれにしても不当配分を受けたという組合員はいない(もつともこれは単に各人員の増減パーセント合計を人員数で除した数値であり、総面積数を表わしたものではない)。

換地処分においては、当然のことながら、これら地積の増減ならびに評価については、清算金をもつて処理し公平を期している。

第三証拠<省略>

理由

第一本案前の主張について

一  本件指定処分取消しの訴えについて

1  原告は、昭和五〇年七月二一日右訴えを取下げ、被告も右取下げに同意(黙示)したので、訴訟は終了したと主張する。以下まずその点につき判断する。

(一) 本件訴訟記録によると、次の事実が認められる。

原告は、昭和四六年一一月六日本件指定処分の取消しを求めて本訴を提起した。ところがその後に換地処分がなされたとして、同五〇年七月二一日付訴の変更申立書で、「請求の趣旨を次のとおり変更する。」としたうえで、「本件換地処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申立てた。右書面は同日被告指定代理人に交付され、同年九月八日第二二回口頭弁論期日において陳述された。一方被告は、同年一〇月一一日付準備書面(同年一〇月二〇日の第二三回口頭弁論期日において陳述)で、右請求の趣旨の変更に対する答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める旨申立て、本案についての答弁をした。その後訴訟手続は進行したが、被告は、昭和五一年七月五日付準備書面(同日の第二六回口頭弁論期日において陳述)で「本件訴えをいずれも却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める旨本案前の申立をし、かつ原告の訴えの変更は請求の基礎に同一性を欠くとして異議を申立てた。

(二) ところで、原告の前記昭和五〇年七月二一日付訴の変更申立書では、交換的変更か追加的変更かなどの点に触れず、本件指定処分取消しの訴えの取下げ、もしくは請求の放棄等についてもなんら言及されていない。一時利用地指定と換地との関係やその後の原告の各準備書面(特に昭和五一年八月三〇日付のもの)などを検討すると、前記原告の訴えの変更は交換的変更であると認めることができるが、前記七月二一日付訴の変更申立書によつて直ちにそのことを認識し、さらに右訴え変更の申立の中に「本件指定処分取消しの訴えの取下げ」の申立が含まれていると判断するのはかなり困難である。以上のような事情のもとでは、前記被告の本案の答弁もしくは昭和五一年七月五日付の準備書面で「訴えの却下」を申立てるまで取下げについて異議の申立をしなかつたとして、本件指定処分取消しの訴えの取下げについて被告が暗黙の同意をしたと認めたり、また三ケ月の経過により同意があつたとみなすことはできない、というべきである。

よつて原告の訴えの取下げにより訴訟は終了したとの主張は理由がない。

2  次に本件指定処分取消しの訴えについて判断する。

昭和四六年五月一八日付で原告従前地に対し、別紙A第一目録記載の一時利用地指定処分すなわち本件指定処分がなされたこと、その後同四九年一月一四日付で右土地に対し別紙A第二目録記載の本件換地処分がなされ、その公告の手続が終了したこと、

以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

ところで一時利用地指定処分は、その後の換地処分とその公告の手続がなされることによつてその効力を失なうものと解せられる。したがつて原告は本件指定処分に基づいてその被指定地を使用収益することはできなくなつてしまつたものといえるから、もはや本件指定処分の取消しを求める法律上の利益も消滅してしまつたというべきである。原告の本件指定処分の取消しを求める訴えは却下を免れない。

二  本件換地処分取消しの訴えについて

1  まず訴え変更の適否について判断する。

(一) 原告が当初本件指定処分の取消しを求めて(以下旧訴という)本訴を提起したが、その後それを交換的に変更し本件換地処分の取消しを求めた(以下新訴という)ところ、被告が旧訴の取下げに同意せず、かつ訴えの変更に異議を申立てたことは、さきに述べたとおりである。そうすると旧訴を新訴に交換的に変更するとする原告の申立を容れることはできない。しかしながら右訴え変更の申立の中には、当然新訴の追加的変更の申立が包含されているものと解せられるから、以下原告の本件訴え変更の申立を追加的変更の申立として、その適否を判断することにする。

(二) 請求の基礎の同一性について

法の規定によると、一時利用地の指定処分と換地処分とは、その目的、要件、効果等を異にし、前者の違法事由が手続的に後者に承継されることもないし、かつ両者は先行・後行の関係にもない。したがつて被告の主張するとおり、両者は法的関連性のない別個の行政処分と解すべきである。

しかしながら、これを本件に即して具体的に検討してみると、本件指定処分も本件換地処分も、ともに本件土地改良事業の進行過程において、同一の原告従前地についてなされたものであり、全体としてその指定された土地も同一である(以上の点は当事者間に争いがない。)。さらに一時的か永久的かは別として、従前地に対する権利を制限消滅させ、他方指定された土地に新たな権利を設定するという点では類似しているところもある。また両処分は、先行・後行の関係にはないが、一時利用地指定処分がなされた場合には、土地改良事業を完結させるために通常その後に換地処分がなされることになる。

次に旧訴において本件指定処分の違法事由として原告が主張したのは、<1>変更換地計画時において神田地区に指定するという約束が被告との間に成立した、<2>神田地区の土地に対して天神地区のそれが指定されたのは照応の原則に違反する、との二点であるところ、原告は本件換地処分の違法事由としてもまつたく同一の主張をしている。一方被告も、本件換地処分を適法とする理由は本件指定処分のそれと同一である、と主張している(特に被告の昭和五〇年一〇月一一日付準備書面)。

さらに本件事業はその規模が大きく工事も四区に分け四年がかりで行なわれ、それにしたがつて順次一時利用地も指定されていつたが、その間原告は換地計画および一時利用地の指定に対し異議の申立をしていた。本件指定処分も、右工事が完了し、かつ右異議の申立を受けた後になされたいわば最終の一時利用地の指定であつた(以上の事実は当事者間に争いがない。)。そして弁論の全趣旨によると、本件指定処分と同一の換地が指定されることは当事者双方とも予想し、前記違法事由の主張からしても原告は換地処分の取消しを求めて争うことが明らかで、一方被告もそれを当然のことと考えていたことが認められる。

以上によると、旧訴と新訴との間には、請求の基礎に変更はないと認めるのが相当である。

加えて、新訴の審理にあたつては、旧訴の手続において提出された訴訟資料や証拠資料がほとんどそのまま利用され、かつ訴えの変更が訴訟手続の著るしい遅滞を招いたとも認められない。

(三) 関連請求について

原告の本件訴え変更の申立ては、民訴法二三二条に基づいてなされたものであることは本件記録上明らかであるが、もとより行政訴訟においても民訴法の規定により訴えの変更をなすことは可能である(行訴法一九条二項、民訴法二三二条)。そして行訴法の関連請求に該当しない場合でも民訴法上の要件を満たせば訴えの変更は可能であり、かつ右二つのうちどの方法によるかは当事者の選択にまかせられているものと解せられる。したがつて新訴が関連請求に該当しないとしても、前記判断の妨げとはならない。

(四) 旧訴の適法性について

次に被告は、本件指定処分取消しの旧訴は本件換地処分がなされたことによつて不適法の訴えとなつたから、その不適法の旧訴を新訴に変更することは許されないと主張する。

しかし、そもそも訴えの変更とは、原告の当初の訴えによつては被告との間の紛争を実質的に解決するのに不充分ないし不適当であることが判明したような場合に、訴訟経済上の見地から被告の利益を著るしく害しない限度において、従前の訴訟手続をそのまま維持し、そこにあらわれた訴訟資料、証拠資料等をそのまま活用するために認められた制度と解せられる。したがつて旧訴が訴え提起時から不適法であつたというのなら格別、訴え提起後にそれが不適法となつたとしても、いまだ訴えが却下もしくは棄却されず訴訟が係属している以上、訴えの変更は適法にこれをなし得るものと解するのが相当であるし、また訴えの変更を認めた制度の趣旨にも沿うものといえよう。

よつて被告の前記主張は採用できない。

(五) さらに被告は、新訴は換地処分後出訴期間を経過した後の訴えであるから、新訴の提起としては勿論のこと、訴えの変更としても不適法である旨主張する。そして本件換地処分が昭和四九年一月一四日付でなされそのころ原告に通知されたことは当事者間に争いがなく、かつ原告が訴え変更の申立書を提出したのは、前記のとおり昭和五〇年七月二一日である。

しかしながら本件の場合には、旧訴と新訴との間に事実上の関連性があり、その請求の基礎に変更がないと認められること前記のとおりであり、しかも本件指定処分と本件換地処分とが同一の土地についてなされ、同一の違法事由を帯びているというのであり、かつ換地処分がなされた当時旧訴は係属していたのであるから、訴えの変更が出訴期間内になされなかつたとしても、出訴期間遵守の点において欠くるところはないと解するのが相当である。

被告の右主張は採用できない。

(六) 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件の訴えの変更は適法である。

2  次に被告は、変更換地計画に対して所定の不服申立の手続をしていないから、右計画に含まれている部分については換地処分取消しの訴えは許されないと主張する。

しかしながら原告の主張するいわゆる照応性の原則違反は、換地計画のみでなく換地処分そのものについての瑕疵であると考えるべきであり、土地改良手続の最終処分で、関係者に重大な影響を及ぼす換地処分について、先行手続である換地計画について争訟の提起の途が規定されているからといつて、右照応性原則違反等を理由としてその取消しの提起ができないと解することはできない。

法八七条一〇項の規定もその改正の沿革からも明らかなとおり、換地計画に限り行政不服審査法の異議申立てを前置したものであつて、換地処分についての訴え提起を制限したものではない。本件のような県営の土地改良事業はその規模も大きく、関係権利者が多数にのぼり、訴訟の結果によつては右事業に重大な影響を及ぼしかねないことは明らかであるが、公告と縦覧に供することを原則とし、各人への通知をその効力にかかわらしめていない換地計画に対する争訟によつて、照応性違反等の場合の争いを決つし、その後の最終的に土地改良に基づく権利関係を決める換地処分について訴え提起を認めていないとは到底解することができない。

よつて被告の右主張も採用の限りではない。

第二換地処分取消しの請求(本案)について

一  請求原因1の各事実は、原告と換地委員長との約束に関することと、換地計画に対する昭和四三年五月二日の原告の異議申立てが、集団化以外の点も問題としていたかどうかの点を除けば、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は被告との間に換地に関し約束が成立している旨主張するので、まずその点につき判断する。

1  いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第七号証の一および三、第八号証の一ないし七、乙第一ないし第三号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、原告本人尋問の結果(第一回)によりその成立の真正が認められる甲第六号証の一および三、第七号証の二、証人石橋和男の証言および原告本人尋問の結果(第一、二回)によりその成立の真正が認められる甲第一四ないし第二六号証、証人石橋和男、大高久雄の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)ならびに弁論の全趣旨に前記争いのない事実を総合すると、次の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

前記のとおり、当初の換地計画に対して原告ら(約二〇名位)から異議の申立がなされた。その不服の内容は、換地をもつとまとめてほしいとの集団化の点や、換地の位置、特に従前地と換地とが離れているという点などであつた。原告自身の異議申立の主な点は、いわゆる神田地区の換地を一つにまとめてほしい点と同地区内にある従前地については同一地区に換地してほしいというものであつた。換地委員、土地改良区の事務局の職員、不服のある組合員らは、何回も集まつて前記問題点について協議を重ねた。その結果最終的に、右各組合員らの不服の点は予定されている変更換地計画のさい考慮しようということになり、同人らもその説明に納得して昭和四三年六月一一日前記各異議申立を取り下げた。なおそのさい換地委員長大谷新一郎作成名義の昭和四三年六月一日付の「能北土地改発第八六号」と記載されかつ契印も押された書面が、前記各組合員らに渡された。右書面には「……変更計画時に貴殿の要望に沿う様努力致しますことを約束します。」という内容が記載されている。その後原告に対し昭和四四年五月二四日付でそれまでの一時利用地指定処分の一部を取消し、改めて原告の希望に沿つた線での指定がいつたんはなされた。しかし同四六年五月一八日付で再度右指定の一部が取消され、神田地区に並んで指定を受けた二区画の田のうち一五九番の土地(以下単に神田一五九番とか単に一五九番とかいうことがある。)の一部が岡部武に指定換えとなり、その分原告は天神地区に改めて一時利用地の指定を受けた。その後の変更換地計画も、原告に対する関係では、総体的には右昭和四六年の本件指定処分と同じ内容となつていた。原告についてのみ一時利用地・換地について右のように大きな変更があつたのは、<1>神田地区の原告従前地は条件の悪いところにも分散していたのに前記昭和四四年度の一時利用地のような換地では優遇しすぎている、<2>岡部武ら従前地を神田地区にしか持たない者に対して天神地区の土地を指定することができない、との二つの点がその理由とされた。

2  ところで、原告の主張する約束は、右に認定したように、その文面等みる限り「将来希望に沿うよう努力する。」という事実上のもので、具体的な請求権を発生させる内容のものとは認められない。その他に確定的な約束が成立したことを認めるだけの証拠はない。そればかりかそもそも土地改良事業は多数の者の利害を調整してその内容を実現していくという公共的性格を有し、法定の諸手続を経て最終的な換地処分に至るものである。したがつてその途上で何人といえども、特定の組合員に特定の換地を約束するなどということはできず、また約束をしたとしてもそのような契約は無効というべきである。

いずれにしても、原告の前記主張は理由がない。

三  そこで次に照応性の点について判断する。

1  原告従前地について

前記乙第一号証、いずれも成立に争いのない甲第二八号証、乙第一八号証、第一九号証の一ないし二〇、証人石橋和男、大高久雄の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告の従前地は、二〇筆、九団地から成立つていたが、地区別にみてみるといわゆる神田地区に、一四筆、六団地、その面積六二九二平方メートル、いわゆる天神地区に、六筆、三団地、面積一八五三平方メートルが、それぞれ所在していた。その所在場所・地形等は別紙Cのとおりである。全体として、各団地とも不整形で、広狭さまざまであり、互いの距離も離れている。

(二) ところでいわゆる神田地区は古くから田であつた部分が多く、原告従前地のうちでも特に神田二三、二四番、前田三三番の一、三四、三五番、前田九三番の一、一〇三番の一、一〇四番の一、一〇七番の一などは地味豊かな田であつた。その他は、それほどでもなく、特に天神地区にある前谷地の三筆は砂地で水田としては適地といえなかつたし、大谷地の三筆は、湿田で水はけが良くなく、しかも国鉄の線路で田が二分された形で、耕作には不便であつた。また天神前三六番の一、三七番、四三番の一も地味が悪かつた。もつとも神田地区のなかでは前田の田は水利が悪く、水不足であり、水を奪い合つて騒ぎが起きるのが毎年のことであつた。そして神田地区、天神地区は、全体として昔の田の通路しかなく(それすらないところもあつた。)大型機械は入れられず、小型の機械を入れるのにも難渋したところが多かつた。

(三) さらに評価等の手続についていえば、県知事から委嘱を受けた佐々木富重他一一名らから成る土地評価委員会は、県の職員二名、部落の補助委員一二名を加えて、昭和四二年七月から八月にかけて、従前地の評価をした。その評価は、地味、耕土の深浅、広狭、形、かんがい、通作距離、通路等一四項目の評点の総合で決めるもので、その詳細は別紙F(二)の調査の詳細のとおりであり、またそれらによつてなされた評価の結果はF(五)のとおりである。それによると原告従前地の総合評点一二二九点、総評価指数(評点と面積とを乗じたもの)は五三万九四四となり、その田の平均等位は四であつた。  2 換地について

前記甲第二八号証、乙第一八号証、第一九号証の一ないし二〇、第二二号証、成立に争いのない乙第一九号証の二一ないし二四、証人石橋和男、大高久雄の各証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)によると、次のとおり認められる。

(一) 原告の換地は四筆・二団地で、長方形の整形をなし、両者とも大型機械等が自由に往来できる道路に面している。そのうち神田地区の土地は二九一九平方メートル、天神地区は五五九三平方メートルである。なお神田地区の二筆には、二本の鉄柱と四本の支柱とが立てられている。もつとも右の土地は原告が希望したものである。そして、特に地味、土質の良好であつた前田三五番、九三番の一、一〇三番の一、一〇七番の一に対して天神五三番が換地されているが、その点が原告の最も不満とするところである。

(二) ところで、本件土地改良事業により、地味の劣るところは土壤が入れられたほかその地盤も整備され、全体として用排水が完備し、少くとも四・五〇メートル幅の道路も縦横に設置されて、大型機械の使用も可能となつた。そして原告の換地のうち三筆は約三〇アールの整形田で、前記評価委員会の評価(その採点基準細目はF(三)、なお右F(五)の「かんがい」と「排水」の評点は逆である。)はF(五)のとおりであるが、それによると、その等位は平均三等位、総合評点合計は三〇三・八、評価指数は六三万九〇〇八となつている。ちなみに天神五三番の総合評点は七三・四、その評価指数は二一万八二九一・六であるのに対し、従前地四筆の総合評点二九四、評価指数二一万二四四となる。

3  右1、2の諸事実、その評価指数等からみる限り、原告従前地とその換地とはいちおう照応性に欠けるところはないといえよう。しかしさらにその点を詳細に検討してみる。

(一) 原告は天神地区の五二番、五三番の各土地が、地味、土質等において神田地区の土地、特に一五九番に比較して著るしく劣る旨主張し、証人金谷三郎の証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)中にはその趣旨の供述がある。しかし前記乙第一九号証の一七ないし二〇および二三、二四、証人石橋和男、大高久雄の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、右天神地区の各土地は土壤を入れ、かつ排水を良くして乾田化したため、その収量は飛躍的に上昇し、現に原告の換地の両隣りの天神五一番、五四番の田や、道路を隔てて向いの同三〇番ないし三三番の田など、いずれも優に平均かそれ以上の収穫が得られていること、かつ大型機械かどうか別として、各耕作者とも機械を入れており、その田の地盤も特に機械化に支障はないこと、以上の事実を認めることができる。右認定に反する前記各供述は採用できない。

(二) また原告は通作距離もはるかに遠方になつた旨主張する。前記乙第一号証、乙第一八号証、証人石橋和男、大高久雄の各証言に前記別紙F(五)の記載を総合すると、天神五三番の土地はその従前地と比較して原告の自宅からの距離が約一〇〇〇メートル位遠くなるのは明らかであるが、一方原告従前地のうち前田三五番はいちおう小路と連絡しているものの、同九三番の一、一〇三番の一、一〇七番の一の各土地は鉄道線路沿いで道路に面していないため、せいぜい畔道程度のものを利用するしかなかつたであろうこと、逆に土地改良事業後の天神地区は道路が整備され、自動車等による交通も可能であり、そのことを考えるとむしろ改良後の天神五三番の方が実質的な通作距離、特に各種耕作・収穫等のための機械の導入や資材、肥料、収穫物等の運搬については、便利となつていること、などの事実を認めることができる。いうまでもなく照応性の原則とは土地改良前の従前地と改良後の換地との照応であつて、通作距離等の点でも原告の主張をそのとおりには認めることができない。

(三) さらに前記評価委員会の評価の点を中心として検討してみる。

(1) 前記乙第一九号証の一ないし二四によると、天神五三番の土地のかんがいは一六の最高点、排水は一〇の各評点が付され、それらは神田一五八番、一五九番のそれと同等である。しかし、前記乙第二二号証、証人大高久雄の証言、原告本人尋問の結果(第二、三回)によると、天神地区のかんがいについては、当初の計画と異なり竹生川からの大量の揚水が望めないため、天神五三番付近では水不足をきたし、結局地下水をポンプで汲み上げて用水をまかなつていること、そのため水量は確保できたが、水温が下がり、特に冷害のときなどその影響は大きいこと、また排水についても換地計画のそれでは充分でなく原告らの申出により手直しされたことが認められる。一方前記評点とF(三)の評点基準細目とを照合してみると、天神五三番のかんがいの点数は、もし「水温が冷い」という部類に属するのであれば四点を減ずるべきであり、それを基準にして前記のように評価指数を計算すると、評価指数は二〇万六三九五・六となり、前記従前地のそれより減ずることになつてしまう。

(2) ところでF(五)とF(三)とを対照させてみると、あるべき最良の田の評点を一〇〇点とし、それとの対比で評点を割り振つたとしても、従前地と換地とでは評価の基準が異なつている部分があると認められる。たとえば日照・通風については、換地には最高の八の評価がなされているのに対し、従前地にはそれ以上の一二というような評価がなされている。ところが証人石橋和男の証言、弁論の全趣旨によると、全体として神田・天神地区とも広大な耕地であり、日照・通風の点は換地の前後で変りはないものと認められる。また通作距離・通路も、原告従前地の前谷地の方が、道路等が整備された換地の天神五二、五三番より高い評点が与えられており、これまで述べたところからして、評価の基準がまつたく異なるように思われる。また広狭・形状についても、もし同基準での評価とすると原告従前地の評価が換地と比較して高すぎるように思われるのである。いずれにしても評価の基準が異なるとすると二者を比較してもそれほど意味はない。しかしさきに認定したところにしたがつて考えてみると、天神五三番と神田地区のその従前地とでは、後者が地味・通作距離でやや優れるとしても、広狭・形状、かんがい・排水などの点では前者の方が優れ、通風・日照は同じとして、全体としては換地の方の評点がかなり高いのではないかと推認されるのである。本件改良事業のように広い農地、特に田を対象として、小規模に分散した農地を大規模田に改良し、かつその集団化を図るという場合には、従前地と換地との位置的照応は、宅地等の区画整理の場合ほど重視されないし(法五三条一項二号、規則四三条の六参照)、いずれにしても総合評点もしくは等位において、換地の方が従前地に劣るということは認められない。

また面積の点についてみてみると、前記甲第二八号証および弁論の全趣旨によると、次のとおり認めることができる。原告従前地の総面積八一四五平方メートルに対し、換地交付基準地積はその指数一〇二・一パーセントを乗じ八三一七平方メートルであるところ、実際の換地の地積は八五一二平方メートルで、その指数は従前地に対して四・五パーセント、基準地積と比較して二・四パーセントの増歩となつている。なお天神五三番の面積は二九七四平方メートルであるのに対し、その従前地四筆の面積合計は二八四二平方メートルである。

(3) また他の三筆の原告の換地についても、従前地との照応性の点において欠けていると認めるだけの証拠はない(原告本人尋問の結果(第一、二回)でも、原告は天神五三番以外の三筆の換地については不満を抱いていないと認められる。)。

(4) 証人金谷三郎の証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)中には、天神の換地について耕作不能であるとか、砂を大量に入れたとか、底がヘドロ状で機械を入れられないとか、述べている部分があるが、原告自身本件指定処分以来一度も天神五三番(五二番も)を耕作していないことは原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)からも明らかであり、その他前記2および3の(一)、(二)の各認定と対比して右供述は採用できない。

四  次に前記請求原因1のうち争いのない事実、右三項の各認定事実、前記乙第一号証、第一〇号証、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、証人石橋和男、大高久雄の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、本件改良事業によつて組合員らは多大の利益を得たこと、特に土地の形、排水・かんがい・通路などの点が完備され、機械の使用も極めて容易になるなど、耕作そのものの形態が右改良によつて大きく変化してしまつたことが認められる。したがつて原告の従前地と換地とがいちおう照応しているとしても、実質的に考えて、他の組合員らの得た利益、少くともその平均的利益と対比して原告の得た利益が著るしく少ないというような場合には、法にいう照応性に違反し、土地改良事業の適正を害する違法な換地と認められる場合が有り得るであろう。特に前認定のように従前地と換地との評価の基準が異なる場合には、その各評価に基づいて決められた各土地の等位、その価額の算定が適正を欠き、最終的に換地等の凹凸を平均化する役割を果すべき清算金の制度も、その換地の適正・公平を担保するかどうか疑わしい。またその結果として一部の者が不当な利益を得、逆にその他の者が著るしく不利益な扱いを受けることも考えられるからである。そこで以下原告の主張する各組合員の例なども検討しながら、右のような諸点について判断する。

1  佐藤勝三郎について

前記乙第一号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、成立に争いのない甲第三三ないし第三六号証、第三七号証の一ないし三、乙第一七号証の一、第六六号証、第六八号証、証人石橋和男、大高久雄の各証言によると、次の事実が認められ、これを覆えすだけの的確な証拠はない。

すなわち当事者の主張五の被告の主張の3(一)の佐藤勝三郎についての被告の主張する各事実の他に、右佐藤の場合には天神地区の三筆の従前地(川向二筆、前谷地一筆)合計二六七九平方メートルに対し神田地区の土地が換地されたこと、もつとも全体としてみると、同人の換地のうちにはその改良前の土地が地盤が悪く、湧水があり、かつ換地としても不整形で、誰も換地希望者のいなかつたところにも換地が指定されていること、しかし前記天神地区の従前地評価の基準では三等位の二筆の田に対して神田地区の一等位(勿論換地のさいの評価)の田が指定されたこと、また前記賃借地がその所有者らに返還されたが、同人らに対し不換地の処分がなされたためか、右賃借地に対する一時利用地として指定された土地がそのまま右佐藤に換地されたこと、もつともその部分は不整形で、条件の悪い場所であること、いずれにしても換地のさいの増歩率は一時利用地の場合より高くなつていること、以上の事実が認められる。

2  金谷春吉について

前記乙第一ないし第三号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第二〇号証、第二一号号証の一、二、第二二号証、成立に争いのない甲第四三ないし第四五号証、第四六号証の一、二、乙第一四号証の一ないし三、第一七号証の三、第二四号証、証人石橋和男、大高久雄の各証言を総合すると、結局次の事実が認められ、右認定を覆えすだけの証拠はない。

当事者の主張五の被告の主張3(二)の金谷春吉についての各主張事実、もつとも乙第一四号証の二では前田五二番一が五一番の三に訂正され、乙第二四号証では五一番の三は五一番の六と記載されているほか、四七番の四、五〇番の五は昭和四五年までは従前地の記載からもれていたこと、さらに天神地区の六筆二二二八平方メートルの従前地(その評価はいずれも五等位)に対し神田地区の他の五筆と合わせ、換地として神田一五三番(原告の指定地と道路をはさんで向い合つている)の極めて条件の良い田が指定されていること、右換地だけをみてみるともともと右一五三番の土地は昭和四五年の一時利用地指定ではその面積は二〇一三平方メートルに過ぎなかつたが、昭和四六年の指定、その後の換地では三二二八平方メートルに面積が増え、その分隣地一五四番の岡部武の面積が減り、右減少分が原告の神田一五九番に食い込んだ形となつたこと、面積も価額の点でも従前地より大幅に増え、特に価額は二割以上増加していること、また神田一七一番、一七二番の換地は、当初大高善之進に換地が予定されていたが、同人が従前地をみて条件の悪い土地としてそこへの指定を断わつたため、金谷春吉に指定されたものであること、同人はもともとそこに従前地を所有していたこと、もつとも前記一五三番、同一九三番にも同人は従前地を所有していたこと、以上の事実が認められる。

3  大高清について

前記乙第一ないし第三号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、いずれも成立に争いのない甲第九号証の三、第一一号証の三、第一三号証の三、第五九ないし第六二号証、第六三号証の一、二、第九一ないし第九四号証、九五号証の一、二、乙第一六号証の一ないし九、第一七号証の七および一五、第二五号証、証人石橋和男、大高久雄の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、不当配分の有無は別として、当事者の主張五の被告の主張3(三)の大高清についての各主張事実、そして同人は従前地もそうであつたが、換地も神田地区の地味の豊かな部分に指定を受けていること、一時利用地指定のさい同人の賃借地などとして従前地とされていたもののうち、換地処分までに返還等されて従前地から削除された分があるが(能谷正義に売却された分は別)、その所有者のなかには不換地処分となつたものもいて、結局大高清は昭和四六年に一時利用地として最終的に指定を受けた面積をそのまま換地されたこと、そのため面積とすると一八・八パーセント、価額にすると二九・六パーセントの増換地となつていること、以上の事実が認められ、右認定を覆えすだけの証拠はない。

4  岡部武について

前記乙第一ないし第三号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、第一〇号証、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、いずれも成立に争いのない甲第一〇号証の一四、第一三号証の一、第一〇八、一〇九号証、第一一〇、一一一号証の各一、二、第一二一号証の一ないし六、乙第一五号証の一ないし八、第一七号証の一九、乙第二七、二八号証、証人石橋和男の証言によると、当事者の主張五の被告の主張3(四)の岡部武についての各主張事実、そしてなるほど同人(岡部多助も含む)の従前地はすべて神田地区にあつて、四団地に分れていて、しかも天神前の四筆の土地は良田とはいえなかつたが、これを神田地区の地味豊かな部分に一団地として指定を受けたこと、結局神田一六〇番地の一七四四平方メートルがさきに原告に指定されていた部分であるが、右従前地の所在からみて、換地を他地区に求めることはできないと考えられたこと、もつとも原告の一五九番の一部に指定される以前はその分を向いの一五四番に指定されていたこと、以上の事実が認められる。原告本人尋問の結果(第二回)のうちには一部右認定と異なる部分があるが、右認定と対比して措信できず、他にこれを覆えすだけの証拠はない。

5(一)  いわゆるプール敷地について

前記甲第三三ないし第三六号証、第三七号証の一ないし三、第四三ないし第四五号証、第四六号証の一、二、乙第一号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、いずれも成立に争いのない甲第四七ないし第四九号証、第五〇号証の一ないし三、第五一ないし第五八号証、乙第一一、一二号証、証人石橋和男の証言ならびに前記佐藤勝三郎、金谷春吉についての認定事実によると、竹生小学校のプール敷地として寄付された残りの土地、字前田三七番の一の他三筆の土地について、一時利用地指定の段階ではいずれも従前地として一時利用地指定書に記載され、一時利用地として仮地番であるが前田六五番ないし六九番の土地が指定されたように誤つて記載されたところ、昭和四八年の変更換地計画で従前地・換地とも削除され、したがつて右プール敷地分だけ関係者が利得したということはないことが認められる。原告本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は、前掲の各証拠と対比して採用できない。

(二)  鉄道用地について

前記四の1佐藤勝三郎について認定したとおり、六〇番の二の国鉄用地が一時利用地指定段階で従前地として記載され、前田六七番の土地が指定された形になつていたが、その後換地のさいには従前地・換地(右前田六七番)とも削除されたことが認められる。また前記甲第五五ないし第五八号証、乙第一七号証の六、第五四号証によると、鉄道用地かどうか別として、薩摩藤市について、一時利用地指定の段階では前田三〇番の一、同三一番の一、同三七番の一の三筆の土地に対し、前田六九番の土地が指定されたように記載されているが、換地のさいは従前地・換地とも削除されたことが認められる。したがつて同人が不当に多くの換地を指定されたとも認められないのである。なお金谷春吉の関係についてはさきに認定したとおりである。

6  次に原告は不当に広い地積の換地を受けている組合員がいる旨主張する。しかしながら、原告の主張自体(別紙E)も、前認定の従前地に一〇二・一パーセントを乗じた換地交付基準地積と対比して法の上限である二〇パーセントを越える組合員がいるとしているわけではない。また本件全証拠によつても、二〇パーセントを越える地積の換地を受けた組合員がいることは認められない。

また原告は、部落や本件土地改良区の役員らに不当に有利な換地がなされているとも主張し、原告本人尋問の結果中(第一、二回)には右主張に沿う部分もあるが、にわかに措信しがたく、他にこれを認めるだけの証拠はない。かえつて証人石橋和男、大高久雄の各証言によると、換地委員らが調整役を勤めざるを得ない場合もあり、その中には引き取り手のない土地の指定を受けている者もいることが窺える。

7  さらに原告は、天神地区から神田地区へ不当に指定替えを受けた組合員らがいるため、そのしわ寄せを受けて、自身は天神地区へ追い出された旨主張する。

(一) もともと、耕地特に田の良否は、その自然的・経済的条件を総合的に考察して決めるべきであるし、さらに本件のような大規模な土地改良事業の場合、従前地の位置への換地は照応性の判断のうえでもそれほど重視さるべき要素とも認められない。もつとも地味の点では一般的に天神地区の方が神田地区より劣ることも事実であるから、前記1ないし4以外の者の両地区間の移動についても検討してみる。

(二) なるほど前記甲第四七ないし第四九号証、乙第一号証、いずれも成立に争いのない甲第九号証の一、第一〇号証の一三、第一一号証の二、第一三号証の九ないし一一、乙第一七号証の四、乙第四九、五〇号証、第五二、五三号証によると、永井治之松(巳之助も含む)に対しては天神地区の七五六平方メートルの二筆の従前地(内一筆は五等位の田)に対し等面積で神田地区の田が指定されていること、佐藤長四郎(共有地も含む)については天神地区の従前地に神田地区の土地、また神田地区の従前地に天神地区の土地と各指定されているが差引すると前者が若干多いこと、中田利直については昭和四六年五月一八日の一時利用地指定では前記佐藤と同様であるが差引神田地区への指定が多いこと、もつとも永井清通については、最終的な換地ではすべて天神地区に指定されていることなどの事実を認めることができる。

(三) もつとも、証人石橋和男、大高久雄の各証言に弁論の全趣旨によると、大高道秋、永井一郎、佐藤弘、大高善之進らは神田地区に従前地があつたが、すべて天神地区に換地の指定を受けたこと、その理由は集団化を図るためであつたり、神田地区の従前地の面積が相対的に少なかつたり、神田地区の一時利用指定地の条件が悪かつたため進んで天神地区を希望したりしたためであることなどの事実が認められる。

8  以上1ないし7の各認定事実、前記三での認定事実ならびに証人石橋和男、大高久雄の各証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回。一部措信しない部分を除く)を総合して、本件改良事業を原告の主張と関連して、かつ原告に対する換地と関わると認められる限度で検討してみる。

(一) まず基本的問題として、照応性の基礎となる評価についてみてみると、経済的・自然的各条件の割り振りや各項目の評価の基準が、従前地と換地とで異なつているため、正確・公平な比較ができない。しかも換地に比較して、従前地の評価が一般に高いように思われる。しかしそのことが原告の換地の指定に不利益な影響を与えているとは認められない。

その他、換地段階で是正されたとはいえ、一時利用地の指定にさいし本件改良事業と関係のない地区外の土地について一部従前地として扱つている。さらに権利者の希望もあつて不換地処分にした分が、従前の賃借権者に、その賃貸借は解約されているのに、そのまま換地され、しかもそれが神田地区になされている。しかしその部分は不整形で狭い面積のところである。いずれにしても、それらのことも原告の換地に不利益な影響を与えたとも認められない。

(二) また本件土地改良区では、各組合員について従前地と換地とが全体として照応すれば良いとの考え方をしたためか、個々の換地と従前地との照応関係は適正とは認められない部分もある。たとえば、金谷春吉については、大高善之進が神田地区への換地を断わつたため、換地委員会の方で頼み天神地区から神田地区へ移動してもらつたと説明しながら、実際の手続では天神地区の土地に対して右断わられた土地を指定せず、神田一五三番の良田を換地としている。そのため一五三番の面積を増やさざるを得ず、その結果岡部武の換地が原告の換地神田一五九番へ食い込むこととなつた。

また原告自身の換地としても、神田地区の良田に対して天神地区の土地(五三番)が指定されている。

(三) 神田地区についていえば、従前地について特に道路が完備せず、その分に土地をとられたため、全体として換地は減歩となるべきである。ところが、その神田地区の指定でかなりの増歩を得ている組合員もいる。もつともその点は整形田かどうかで評価にかなりの違いがある。いずれにしても増歩になつている分を考えただけでも、原告に対し、神田地区の従前地、しかも比較的良田と目されたものについて神田地区に換地を指定することはそれほど困難であつたとは思えない。しかも原告が希望した(神田一五九番にもつと広い換地が得られることが前提であつたと推認される。)とはいえ、原告の神田地区の換地には鉄柱とその支柱が立ち、機械を導入するにはかなりの支障となつているのである。

そうした見地からみてみると、佐藤勝三郎、金谷春吉、大高清らが神田地区に増歩の換地を受け、特に右金谷の換地、しかも天神地区から神田一五三番への換地が直接原告に不利益な影響を与えたことは否めない。また右三人の換地は従前地と比較して、その評価が高く、したがつて清算金も多くなつている。右金谷については、前記大高善之進の件(神田一七二番の土地のこと)のみで、天神地区の土地について神田地区に指定せざるを得なかつたかどうかは疑問であり、原告が昭和四五年以前に一時利用地指定を受けたままの土地を換地として受けるのと果してどちらがより利得を得るか、どちらがいわばより突出した換地となるのか、疑問を禁じ得ない。右金谷についての換地をさらに検討してみると、もともと神田一七二番には同人の従前地があつたし、接してはいないがその北方には佐藤勝三郎がその所有者が不換地処分を受けた結果増歩分として換地を受けた神田一六六番の一部、一六七番の土地も存在したのであるから、右金谷の天神の五等位の従前地の換地を右佐藤の増歩分などと合わせて処理し、神田一五三番の二等位の田の方へ換地せずに、あるいはより少なく換地することで、原告への影響も小幅なものにできなかつたのかとも考えられる。またそれとからんで、神田一六一、一六二番に換地を受けた大高清の増歩分を減少させることも考慮する余地があつたであろう。

(四) しかしながら、これだけ大規模な改良事業で、多数の分散地をできるだけ整形田として集団化する場合、かなりの凹凸があるのはやむを得ないところであり、法はそれを前提として清算金による公平化を図つているのである。原告が神田地区を固執するのは、従前地ということではなく結局地味の良否、機械化の是非にあるが、その営農努力もあるとはいえ条件が同じ筈のその両側もしくは向いの各田とも機械もはいり平均的数量の収穫をあげている。前記のとおり田の良否は、地味等の自然的条件のみでなく、土地の広狭、形状、道路の状態などの経済的条件、さらにかんがい・排水などの自然的条件も総合的に勘案して決めるべきことはいうまでもない。

その他面積以外の点での換地の内容を前記検討ずみの四名以外の者についても考えてみると、証拠として提出された各換地明細、従前図、換地図(いずれもその成立には争いがない)その他本件全証拠を検討してみても、各組合員の換地が著るしく不公正になされたとの事実を窺うことはできない。確かに金谷春吉に対する換地は、同人の所有する従前地が比較的小規模で集団化の要請があつたとはいえ、一度は調整ずみの原告のそれに直接影響を及ぼしたし、照応性の面でも疑問が残ることはさきに述べたとおりである(これに対して他の三名についての換地は前記認定の事情、特に一時利用地の指定等も考えると、不換地処分にした小規模な不整形田を他に換地するわけにもいかないであろうし、原告や他の者に与えた影響の点でも、従前地と換地との各照応の面でもそれほど問題があるとはいえないであろう。)。

しかしながら、従前地への換地、つまりその位置関係は土地改良ではそれほど重視されず、特に本件のように大規模な土地改良事業で原型とはまつたく異なる整形田が出現している場合には特にそうであろう。結局金谷春吉と原告との各換地、特に原告の神田地区の良田に対する天神地区への換地、一方右金谷の天神地区の田についての神田地区への換地とを比較すれば問題はないではないが、前記原告について従前地と換地との照応性の点に欠けるところはなく、本件土地改良事業の結果各組合員の得た平均的な利得と対比してみても、原告のそれが特に整合性を欠くとも認められない。いずれにしても原告への本件換地、その中で特に神田地区の四筆の従前地に対する天神五三番地への換地について、これを違法なものとして取消すべき事由は見当らないというべきである。

(五) 証人金谷三郎の証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)中には、以上の(一)ないし(四)の各認定と反する部分があるが、それらはいずれも採用できず、その他本件全証拠によつても原告に対する本件換地処分を全部にしろ、一部にしろ、違法なものとして取消さなければならない事情は認められない。

第三むすび

よつて原告の本件指定処分の取消しを求める請求に係る訴えは不適法としてこれを却下し、本件換地処分の取消しを求める請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、行訴法七条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木経夫 小松一雄 播磨俊和)

別紙A、B、C(一)、C(二)、D、E、F(一)~(五)<省略>

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